多くの歯を失って、オールオン4と総入れ歯で迷っている方へ。費用差は100倍以上ありますが、噛む力・固定性・味覚には明確な違いがあります。どちらが優れているという話ではなく、何を優先するかで答えが変わる選択です。現役の歯科医院経営コンサルタント(TOSHI)が項目別に整理しました。
この記事の結論
- 費用:総入れ歯1〜3万円(保険3割)/オールオン4200〜600万円
- 噛む力:総入れ歯は天然歯の20〜30%/オールオン4は70〜90%
- 上顎の総入れ歯は口蓋を覆うため、味覚と温度を感じにくい
- まず保険の総入れ歯を試すのは合理的な順序
- 入れ歯が合わない・外れることが最大の不満なら、オールオン4を検討する価値がある
項目別の比較
| 項目 | オールオン4 | 総入れ歯(保険) |
|---|---|---|
| 費用(片顎) | 200〜600万円 | 1〜3万円(3割負担) |
| 保険 | 適用外 | 適用 |
| 噛む力 | 天然歯の70〜90% | 天然歯の20〜30% |
| 固定 | 固定式・外れない | 着脱式・ずれることがある |
| 上顎の口蓋 | 覆わない | 覆う(味覚・温度が鈍る) |
| 手術 | 必要(4〜6時間) | 不要 |
| 治療期間 | 6か月〜1年 | 1〜2か月 |
| 清掃 | 外せない。専用器具が必要 | 外して洗える |
| 作り直し | 不要(人工歯は10〜15年で交換の場合あり) | 数年ごとに調整・作り直し |
| 顎の骨 | 維持されやすい | 徐々に痩せていく |
| やり直し | できない(不可逆) | できる |
噛む力の差が最も大きい
総入れ歯は歯ぐきの上に乗せているだけなので、力を入れると沈み込んだりずれたりします。噛む力は天然歯の20〜30%程度です。
オールオン4は顎の骨に固定されているため、天然歯の70〜90%まで回復します。この差が、食べられるものの幅に直結します。
| 食べ物 | 総入れ歯 | オールオン4 |
|---|---|---|
| やわらかい煮物・豆腐 | ◎ | ◎ |
| 肉(ステーキなど) | △ 噛み切りにくい | ○ |
| りんご・とうもろこし(かじる) | ✕ 前歯で噛むと外れやすい | ○ |
| たくあん・おせんべい | △ | ○ |
| もち・ガム(粘着性) | ✕ 外れやすい | ○ |
「食事を楽しめるかどうか」が、この2つを分ける最も実感しやすい違いです。

上顎は「口蓋を覆うかどうか」が大きい
意外に軽視されがちですが、上顎では重要な違いです。
上顎の総入れ歯は、吸着させるために口蓋(上あごの天井部分)を床で覆います。このため以下が起こります。
- 味を感じにくくなる(口蓋にも味覚受容体がある)
- 温度を感じにくい(熱いものが分かりにくい)
- 食感が変わる
- 人によっては嘔吐反射が出る
オールオン4は口蓋を覆わないため、味覚と温度感覚が保たれます。「食事の味が分からなくなった」ことが総入れ歯の最大の不満という方には、この差が決定的になります。
費用を長期で比較する
総入れ歯は作り直しが必要です。20年で比較してみます。
| 期間 | 総入れ歯(保険) | オールオン4 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 2万円 | 250万円 |
| 調整・修理(20年) | +5万円 | — |
| 作り直し(4〜5年ごと) | +8万円 | — |
| メンテナンス(20年) | +3万円 | +30万円 |
| 人工歯の交換(1回) | — | +50万円 |
| 医療費控除の還付 | — | −70万円 |
| 20年合計 | 約18万円 | 約260万円 |
上記は一般的な目安による試算です。実際の費用は口腔内の状態・使用する材料・医院により異なります。
長期で見ても差は縮まりません。ブリッジと入れ歯の比較のように「10年で逆転する」といった話にはならないので、費用を最優先するなら総入れ歯が合理的です。
ただし医療費控除で50〜120万円が戻るケースがあり、デンタルローンで月2〜4万円台に分散もできます(費用の詳細)。
顎の骨への影響
見落とされやすい違いです。
歯を失うと、顎の骨は刺激を受けなくなり徐々に痩せていきます。総入れ歯では骨に直接の刺激が伝わらないため、この吸収は進み続けます。骨が痩せると入れ歯が合わなくなり、作り直しが必要になるという循環に入ります。
オールオン4はインプラント体を通じて骨に刺激が伝わるため、骨の吸収が抑えられます。顔貌の変化(口元がしぼむ)も起こりにくくなります。
どちらを選ぶべきか
総入れ歯が向いている方
- 費用を抑えたい
- 外科手術を避けたい
- 持病があり手術のリスクが高い
- 定期通院を続けるのが難しい
- まだどちらとも決めきれない(後から変更できる)
オールオン4を検討する価値がある方
- 入れ歯が合わず、外れる・痛いという不満が続いている
- しっかり噛めるようにしたい
- 味覚が鈍っていることが辛い
- 着脱の手間・見た目が気になる
- 費用を負担でき、定期通院を続けられる
順序としては「まず総入れ歯」が合理的
コンサルタントとして症例を見てきた立場からの意見です。
迷っているなら、まず保険の総入れ歯を作って使ってみるのが合理的な順序です。理由は3つあります。
- 費用が1〜3万円で試せる
- 合わなければオールオン4に移行できる(逆はできない)
- 「何が不満なのか」が具体的になり、次の判断精度が上がる
総入れ歯を使ってみて「外れる」「噛めない」「味がしない」という不満が明確になってから、オールオン4を検討しても遅くありません。オールオン4は不可逆的な治療なので、順序を逆にするメリットは小さいです。
なお、保険外の総入れ歯(金属床・シリコン義歯など)という中間の選択肢もあります。20〜50万円程度で、保険のものより薄く・熱が伝わりやすくなります。
よくある質問
Q. 総入れ歯からオールオン4に変更できますか?
A. 可能です。ただし総入れ歯の期間が長いと顎の骨が痩せている場合があり、骨の量によっては本数を増やす、あるいは骨造成が必要になることがあります。CT撮影で確認します。
Q. オールオン4から総入れ歯に戻せますか?
A. インプラント体を除去すれば理論上は可能ですが、外科処置が必要で骨にダメージが残ります。現実的な選択肢とは言えません。
Q. 中間の選択肢はありますか?
A. インプラントオーバーデンチャーという方法があります。2〜4本のインプラントで入れ歯を固定するもので、費用は片顎80〜200万円程度。着脱式ですが、通常の総入れ歯より安定します。オールオン4より安価に固定性を得たい場合の選択肢です。
Q. 年齢的に手術は難しいですか?
A. 上限年齢はありません。70代・80代でも全身状態が安定していれば可能です。ただし骨粗鬆症の薬を服用している場合は必ず申告してください。
自由診療に関する情報開示
- 治療内容:片顎4本のインプラント体を顎骨に埋入し、固定式の人工歯を装着する外科処置を伴う治療
- 標準的な費用:片顎200〜600万円(自由診療・保険適用外)
- 治療期間・回数:6か月〜1年・通院10回前後
- 主なリスク・副作用:術後の腫れ・痛み・出血、骨結合不全による脱落、インプラント周囲炎、神経損傷。残存歯の抜歯を伴い不可逆的。全身状態や服薬内容により治療を受けられない場合があります
なお保険適用の総入れ歯は3割負担で1〜3万円程度、作製期間は1〜2か月・通院4〜6回が目安です。装着後は調整が必要で、数年ごとの作り直しを要する場合があります。
監修者プロフィール

監修:TOSHI(歯科医院経営コンサルタント)
歯科医院の経営・集患支援を専門とするコンサルタント。複数の歯科医院の経営改善・マーケティング支援に携わり、インプラント治療を提供する医院の診療体制・設備・費用設計の内側を熟知している。患者の立場から「本当に信頼できる医院とは何か」を発信するため、本サイトを運営。
まとめ
- 費用は100倍以上の差。費用最優先なら総入れ歯
- 噛む力は20〜30% 対 70〜90%。食事の幅が変わる
- 上顎では口蓋を覆うかどうかで味覚・温度感覚が変わる
- まず総入れ歯を試すのが合理的な順序(後から移行できる)
- オールオン4は不可逆。急いで決める治療ではない
入れ歯の何が不満なのかを具体的に整理してから、複数の医院で相談してください。「外れる」のか「噛めない」のか「味がしない」のかで、適した解決策は変わります。
